作品について
全ての作品は鉛筆などでの下描きを行いません。毛筆にて直接白い紙に描かれます。完成後、余分な部分をカットし、額装(もしくは軸装)します。額は絵に合わせて特別に製作されます。竹ペンなどは使用せず、羊毛のやわらかい筆で一気に描きあげ、何枚かの内一番良い物のみ額装され、他は処分されます。
同一作品は、額ともに存在しません。世界に一点しかない作品を提供いたします。
また作品により、純金泥、プラチナ泥、日本画の岩絵の具で一部彩色されます。画材はとても堅牢で千年近く褪色しません。これら全て自然が生んだ画材は澄んだ美しさを持ち、けばけばしくなく上品な色合いで飽きが来ることはございません。
紙は文革前の古い宣紙を用いますが、ハーネミューレ紙、キャンソン紙などヨーロッパの紙も使います。手漉きの最高級用紙はそれぞれに味わいがあり作風に合わせて使い分けると表現の幅が広がります。
ノートルダム寺院・正面
30号は宣紙を用いて描くには最大サイズです。
号数の後に「変」とあるのは変形の略で、例えば30号Mとか30号Pではなく縦横比率が規格外の独自のものという意味です。
全紙サイズの宣紙に鉛筆などでの下描きはせず、いきなり墨で描き始め、描き終えてから絵の周りをカットして、そこでやっと大きさが決まるという作風だからです。
大きく広げた紙のど真ん中から自在に筆を動かせることは気持ちのよいものですが、墨は消すことが出来ないので、気に入らなければ最初から描き直しとなり、紙の無駄がでます。
しかし下描きの上をなぞる線は勢いが無く面白くありません。だからじかに墨で描く事にこだわってきました。額も特注になり、まさに世界に一点しかない絵が出来上がるという訳です。
墨は乾隆年製の油煙としました。画像では油煙特有のやわらかいセピアトーンは確認できないかもしれません。
ノートルダム寺院に限らずゴシック建築は幾何学的に構成されて直線やアーチの組み合わせにその特徴があります。私は定規を使わないので、すべてフリーハンド。
あえてノートルダム寺院の正面の中心部分のみを描いてみました。石造りの重厚な聖堂の幾何学模様の中に、じわりとその大きさや尖塔の向こうに見える空を感じてもらえればさいわいです。
ノートルダム寺院・正面
30号 変
サクレクール寺院・月光
サクレクール寺院・月光
20号 変
パリの観光名所であるサクレクール寺院です。その白い姿を夜空で包み込むことでより際立たせようと考えました。白い絵の具は使用しません。紙のままです。
墨は明末清初の松煙墨です。古い墨は伸びが悪くとても描きづらいです。しかし、その墨色はベルベットのような質感で、夜空を描くときこれ以外に思いつかないほど美しい効果があります。
滲みも不規則で予想が立たちません。まず建物を描き、つぎに夜空を塗ってゆきます。
墨液は時間とともにゆっくりゆっくり滲んで、十五分ほど待ったでしょうか。建物と月の部分のほんの少し手前で滲みが止まってくれました。
ほっと胸をなでおろします。墨液の量や濃さを間違うと滲みは建物に侵入し、月をなくしてしまうことがよくあります。
つまり黒い空に月を白く描いたものでなく、月のように見える余白を塗り残したのです。今回はプラチナ泥を用い月と建物にアクセントを入れてみました。
メリーゴーランド
できるだけ水墨によるモノトーンで表現してみました。墨は柔らかいセピア調の色が出る「乾隆御墨」とし、バックにごく薄く日本画の絵具とプラチナ泥を混ぜ合わせたものを塗ってあります。
このメリーゴーランドはモンマルトルの丘のふもと、サクレクール寺院のそばにあり、訪れた方はご記憶にあるのではないでしょうか。
本来色華やかなメリーゴーランドですが色の表現をあえて抑えることによって、この絵を見る方によってそれぞれの色をイメージしていただければと考えて描きました。
メリーゴーランド
10号 変
サンジェルマンデプレ教会
パリの中心にある有名な教会です。手前の道幅が狭く下から見上げた構図になります。あえて遠近感を強調して小さな古い教会と、パリの冬には珍しい青空の広がる様子を対照的に描いてみました。
日本画の絵具に「群青」(ラピスラズリの粉)がありますが、空の色に群青を使うことによって上品な水色が表現できました。
水墨画には珍しい立体感を強調する光と影の効果を狙ってみました。墨は油煙墨。紙はハーネミューレ紙です。
サンジェルマンデプレ教会
10号 変